2140年にブロック報酬が完全になくなった後、取引手数料のみに依存するセキュリティモデルは持続可能でしょうか?また、「コモンズの悲劇」を招く可能性はありますか?

背景

ビットコインのブロック報酬は2140年にゼロまで半減すると予想されており、その時点でマイナーの収入は取引手数料に完全に依存することになる。これにより、そのセキュリティモデルの持続可能性への懸念や、「コモンズの悲劇」(共有資源が個人の利己的行動によって枯渇する現象)の発生リスクが提起されている。

取引手数料主導のセキュリティモデルは持続可能か?

  • 持続可能とする論点

    • ビットコインの取引量が大幅に増加すれば(例:大規模な普及やライトニングネットワークなどの第二層ソリューションによる)、手数料はマイナーへの十分なインセンティブとなり得る。過去のデータでは、ブロック報酬半減後に手数料の割合が上昇した事例がある(2020年以降で10-20%)。
    • ビットコインネットワークには自動難易度調整機構が存在:ハッシュレートが低下すると採掘難易度が下がり、残存マイナーが報酬を得やすくなるため、ネットワークの安定性が維持される。
    • 長期的に見て、マイナーは効率化(再生可能エネルギーの活用など)によりコストを削減でき、低手数料環境でも採算が取れる可能性がある。
  • 持続不可能とする論点

    • 取引手数料は市場の需給に影響される:取引需要が不足する場合(例:熊市や競合暗号通貨の台頭時)、手数料がマイナーのコスト(電力・ハードウェア支出等)を賄えず、ハッシュレートが急落する恐れがある。
    • セキュリティリスクの増大:ハッシュレート低下は51%攻撃(過半数の計算能力を掌握した攻撃者による取引改ざん)のリスクを高める。試算では、現在のセキュリティ予算(ブロック報酬+手数料)は約2,000万ドル/日だが、手数料のみに依存する場合、同等のセキュリティ水準維持には手数料が10倍以上増加する必要がある。
    • マイナーの集中化:小規模マイナーが撤退することで計算力が少数の大規模マイニングプールに集中し、中央集権化リスクが高まる。

総じて、持続可能性はビットコインの普及率と手数料市場の動向に依存する:高い普及率下では可能性があるが、不確実性が顕著に存在する。

「コモンズの悲劇」を招くか?

  • コモンズの悲劇リスク

    • マイナーという「個人」が短期的利益追求(例:手数料が高い時のみ採掘)を優先し、ネットワークセキュリティ維持を軽視する可能性がある。これにより「フリーライダー問題」が発生:マイナーが投資を削減し、他者がセキュリティコストを負担することを期待する結果、ネットワークが脆弱化する恐れがある。
    • 低手数料期のマイナー離脱は悪循環を招き得る:ハッシュレート低下→ネットワーク安全性低下→ユーザー信頼減退→取引需要減少→手数料さらなる低下。
  • 緩和要因

    • ビットコインのプロトコル設計(例:難易度調整)やコミュニティガバナンス(例:ソフトフォークによる手数料機構最適化)が部分的にリスクを相殺し得る。例えばユーザーが自主的に手数料を引き上げ、マイナーを誘導できる。
    • 外部要因:規制支援や機関の採用などにより取引需要が増加すれば、手数料主導モデルの堅牢性が高まる可能性がある。

結論:コモンズの悲劇リスクは存在するが必然ではない。ネットワーク参加者が調整(プロトコルアップグレード等)を通じて資源枯渇を回避できるか否かにかかっている。

まとめ

取引手数料のみに依存するセキュリティモデルは2140年以降も持続可能な可能性があるが、それを支える高い取引量が必須である。さもなければハッシュレート崩壊やコモンズの悲劇を招きやすい。ビットコインコミュニティは、レジリエンス強化のため(拡張ソリューションの導入等)事前の計画策定が必要である。