こんにちは。この質問をされているということは、ご自身やご家族、お友達が甲状腺に関連する問題、特に手術を控えている状況なのかなと思います。あまり心配しすぎないでくださいね。このことについて、できるだけ分かりやすく、丁寧に説明していきます。
副甲状腺とは?甲状腺の隣人だけど、仕事は全く別物
甲状腺と副甲状腺は、向かい合わせの隣人同士のようなものだと考えてみてください。
- 甲状腺 (Thyroid Gland): こちらは「大物」で、知名度も高いです。体の「エンジン」あるいは「新陳代謝のマスタースイッチ」のような役割を担い、体のエネルギー消費速度、体温、心拍数などを調節しています。甲状腺がんはここで発生する病気です。
- 副甲状腺 (Parathyroid Glands): こちらは甲状腺の「裏側」に住む4人の「小さな隣人」です。非常に小さく、通常は4つあり、大豆や米粒ほどの大きさで、甲状腺の背面にぴったりくっついています。小さくて目立ちませんが、その仕事は極めて重要です。
副甲状腺の中心的な仕事はただ一つ:体内の「カルシウム管理者」としての役割を果たすことです。
血液中のカルシウムイオン濃度を精密に調節する責任があります。
- 血中カルシウムが低くなると、すぐに「副甲状腺ホルモン(PTH)」というホルモンを分泌し、骨からカルシウムを血液中に放出させると同時に、腸にカルシウムの吸収を増やさせ、腎臓にカルシウムの排泄を減らすよう指令を出し、血中カルシウムレベルを上げます。
- 血中カルシウムが高くなると、「サボって」休み、ホルモンの分泌を減らし、血中カルシウムレベルは自然に下がります。
なぜ血中カルシウムがそんなに重要なのか? 血中カルシウムは、骨が硬いかどうかに関係するだけではありません。私たちの体の神経信号の伝達、筋肉の収縮(心臓の鼓動も含む)、血液凝固など、安定した濃度のカルシウムがなければ成り立ちません。それは電気回路の電圧のようなもので、安定していなければならず、高すぎても低すぎても問題が生じます。
まとめ: 副甲状腺とは、甲状腺の後ろに隠れている4つの「小さな豆」で、体の血中カルシウムの総責任者です。
手術による損傷後の影響は?——「カルシウム管理者」がストライキ
甲状腺手術(特に甲状腺全摘術または亜全摘術)を行う際、医師はこの4つの「小さな豆」を非常に慎重に保護しようとします。しかし、それらはあまりにも小さく、壊れやすく、しかも甲状腺の血管と「共有」しているため、手術中に何らかのトラブルが起こる可能性は避けられません。
- 一時的な損傷: 最も一般的なケースです。甲状腺を完全に摘出するために手術中に副甲状腺への血液供給が一時的に影響を受けることがあります。鉢植えの植え替えで根が動かされ、花が一時的にしおれるようなものです。しばらくすると元に戻ります。これは**「一過性副甲状腺機能低下症」**と呼ばれます。
- 永続的な損傷/誤切除: 比較的稀です。副甲状腺が腫瘍と非常に近接していたり、位置が特に分かりにくかったりすると、1~2個、あるいは全てが一緒に切除されてしまう可能性があります。残った副甲状腺が正常な血中カルシウムレベルを維持するのに十分でない場合、**「永続性副甲状腺機能低下症」**が生じます。
どちらの場合でも、結果は同じです: 「カルシウム管理者」がストライキを起こしたり、いなくなったりして、血中カルシウムを管理する者がいなくなり、血液中のカルシウムレベルが持続的に低下します。これは医学的に**「低カルシウム血症」**と呼ばれます。
低カルシウム血症ではどんな症状が出る?(これは非常に重要です。術後は必ず注意してください!)
低カルシウム血症の症状は警報装置のようなもので、軽度から重度まで段階があります。知っておく必要があります:
- 軽度(警報発令):
- 手足のしびれ、ピリピリ感:これが最も典型的で、最も早く現れる症状です。腕を押さえつけてしびれた後のような「ビリビリ」した感覚です。
- 口の周りのしびれ:口の周りがジンジン、あるいはこわばった感じがします。
- 中等度(警報レベル上昇):
- 筋肉のつり、けいれん:ふくらはぎや腕の筋肉が突然つることがあります。重症化すると、手が無意識に鷲の爪のような形に収縮することがあります(「助産師手」または「テタニー」と呼ばれます)。
- 顔面筋のひきつり。
- 不安感、イライラ感。
- 重度(危険警報!):
- 喉頭けいれん:喉の筋肉がけいれんし、呼吸困難や窒息感を引き起こします。これは非常に危険なサインです!
- 全身けいれん:てんかん発作に似た状態。
- 不整脈。
注意: ほとんどの患者さんは軽度から中等度の症状を示し、通常は術後1~3日目が最も顕著です。重度の症状は比較的稀で、通常は病院内で発生し、医師が迅速に対処します。
術後はどうすればいい?——積極的に協力し、自ら「カルシウム補充係」になる
万が一副甲状腺機能低下症が生じても、慌てないでください。これは甲状腺手術後で最もよくある合併症の一つであり、医師はその対処に非常に慣れています。
- 入院中は医師の指示に従う: 術後、医師は定期的に血中カルシウムレベルをモニタリングします。手のしびれなどの症状が出たら、すぐに看護師や医師に伝えてください。血液検査で確認し、カルシウムが低い場合はカルシウムの静脈注射(俗に「カルシウム注射」)を行います。効果は即効的です。同時にカルシウム剤と活性型ビタミンDの内服を開始します。
- 退院後の自己管理:
- 薬の服用が鍵: 医師はカルシウム剤と**「カルシトリオール」**という活性型ビタミンDを処方します。覚えておいてください、この2つは一緒に服用する必要があります!カルシウムだけを補給しても、活性型ビタミンDという「運び屋」がいなければ、腸からの吸収は困難です。医師の指示を厳守し、自己判断で薬を中止したり減量したりしないでください。
- 体のサインに注意深く気を配る: 自宅でも手足のしびれの兆候がないか注意してください。またしびれを感じたら、カルシウム補充量を増やす必要がある可能性があります。すぐに主治医に連絡しましょう。
- 食事による補助: 牛乳、ヨーグルト、豆腐、厚揚げ、緑黄色野菜、ごまなど、カルシウムを多く含む食品を積極的に摂取しましょう。ただし、回復初期は食事だけでは不十分で、薬物療法に頼る必要があります。
- 定期的な通院・検査: これが最も重要です!定期的に病院に戻り、血液検査で血中カルシウムと副甲状腺ホルモンレベルをチェックする必要があります。医師はその結果に基づいて、徐々に薬の量を調整していきます。
- 一過性の患者さんでは、数週間から数ヶ月後に副甲状腺機能が回復し、薬を徐々に減らして中止できる可能性があります。
- 永続性の患者さんでは、生涯にわたる服薬が必要になるかもしれません。しかし、怖がることはありません。高血圧や糖尿病のように、長期的に管理が必要な慢性疾患と考え、毎日決められた薬を数錠飲むことで、普通の人と同じように生活することができます。
まとめ: 副甲状腺の損傷は甲状腺手術における一般的で管理可能なリスクの一つです。術後最も重要なのは「低カルシウム血症」のモニタリングと対処です。医師としっかり協力し、指示通りに薬を服用し、定期的に検査を受けていれば、一時的であれ永続的であれ、その影響をうまくコントロールでき、長期的な生活の質(QOL)に大きな悪影響を与えることはありません。
この説明がお役に立てば幸いです。一日も早いご回復をお祈りしています!