評価プロセスはどのように公正性と客観性を確保していますか?
はい、日本和牛の格付けがどう公平性・客観性を保っているか、というご質問ですね!非常に良い質問です。多くの方が「自画自賛では?」と疑問に思われるかもしれませんが、実はこのシステムは全国統一の標準試験のように厳密に設計されています。
いくつかの側面から説明しますと、ご理解いただけると思います。
1. 「試験官」は誰でもなれるわけではない:厳格な格付員制度
まず、和牛に格付けを行う「格付員」は、普通の屠畜業者や料理人とは全く異なります。
- 資格必須:彼らは全国組織「日本食肉格付協会(JMGA)」による厳しい研修と試験を通過し、資格を取得しなければなりません。この試験は非常に難しく、牛の解剖学や肉質科学に対する深い理解が求められます。
- 継続的研修:資格取得後も終わりではありません。定期的な研修と評価を受け、全国統一の基準から「目がずれる」ことなく、格付け基準を維持し続ける必要があります。
これはちょうど、大学入試の採点者が厳格に選抜・訓練され、東京の先生でも大阪の先生でも採点基準が統一され、ブレがないのと同じです。
2. 「採点基準」は全国統一の「教科書」:明確で定量化された基準
和牛の格付けは、格付員の感覚「この肉は良いと思う」で終わるものではありません。非常に詳細で、ある意味「杓子定規」とも言える全国統一基準が存在します。格付けは主に二つの大きな項目で行われます:
A) 歩留等級(A~C):「歩留まり(出肉率)」
これは比較的理解しやすい項目です。牛一頭からどれだけ販売可能な肉が取れるかを示します。格付員は特定部位の寸法を測定し、固定の計算式に基づいて算出します。Aが最高(歩留まり良好)、Cが最低となります。純粋な数値計算であり、非常に客観的です。
B) 肉質等級(1~5):こちらが本命
和牛の価格を決定する鍵であり、最も注目される部分です。さらに以下の4つの小項目に細分化され、それぞれに具体的な基準と参照物(標準色見本など)があります:
- 脂肪交雑(B.M.S.): いわゆる「サシ(霜降り)」です。格付員は12段階の「牛肉脂肪交雑基準(B.M.S.)」モデル図と照らし合わせて採点します。No.1が最低、No.12が最高です。最高の5等級に評価されるには、No.8~No.12である必要があります。
- 肉の色沢(B.C.S.): 格付員は7段階の「牛肉色沢基準(B.C.S.)」色見本と比較します。色が濃すぎても薄すぎてもダメで、鮮やかな桜色(明るい赤)が最良とされます。
- 肉の締まり及びきめ: 視覚と触覚により、肉質が細かく締まっているかを判断します。多少の主観性はありますが、格付員の長年の訓練により、「良い」「悪い」の判断は非常に一致しています。
- 脂肪の色沢と質(B.F.S.): 純白の脂肪が良質とされます。格付員は「牛脂肪色沢基準(B.F.S.)」色見本と比較し、黄色みがかったりムラのある脂肪は減点対象となります。
ここが最も重要な点です: 肉質等級の最終評価は、この4項目の中で最も低い評価の項目によって決定されます。例えば、ある牛肉のサシ(B.M.S.)が5等級基準を満たしていても、肉の色沢が4等級基準しか満たしていない場合、その肉の最終的な肉質等級は5ではなく4となります。この「短所が全体の評価を決める方式」により、「一つの長所で他の短所を覆い隠す」可能性を排除し、全ての面で優れた牛肉だけが最高評価を得られるよう保証しています。
3. 「試験プロセス」の高度な統一:標準化された評価環境と手順
公平性を確保するため、格付けプロセス全体も標準化されています。
- 格付け場所:食肉処理場内の特定区域で行われ、照明や温度が規定されています。
- 格付けタイミング:牛は屠畜後、肉質が安定するよう特定温度で一定時間冷却されてから格付けされます。
- 格付け部位:格付員が適当に肉を切って見るのではなく、牛の第6肋骨と第7肋骨の間の切断面を評価することが厳格に定められています。この部位が牛全体の肉質レベルを最も代表するとされています。
このプロセス全体は、標準化された試験場で統一された問題用紙と解答用紙を使い、全ての「受験者」(牛)が同じ環境下で評価されるのと同じです。
4. 「監督機関」の存在:日本食肉格付協会(JMGA)
前述の「日本食肉格付協会(JMGA)」は独立した第三者機関です。特定の農場や食肉会社に属していません。その存在意義は、ルールの策定、格付員の育成、格付けプロセス全体の監督にあります。
これは国の「大学入試センター」のようなものであり、その中立性が格付けシステム全体がいずれかの利害に偏らないことを保証し、システム全体の信頼性を維持しています。
まとめ
以上のように、和牛格付けの公平性と客観性は、以下の「柱」によって支えられています:
- 専門的な「試験官」:厳格な認証を受けた格付員。
- 統一された「教科書」:全国共通の、極めて詳細な定量化された採点基準。
- 標準化された「試験場」:標準化された格付け環境とプロセス。
- 中立な「監督」:独立した第三者協会による監視。
このシステムは人の主観的な感覚を最小限に抑え、可能な限り全てを数値化・標準化しています。ですから、「A5」と刻印された和牛を見かけた時、この格付けは非常に信頼できるものであり、その背後には厳密で科学的かつ公平な評価システムの全体が存在していると信じて良いのです。