「弾丸登山(bullet climbing)」とは何ですか?なぜ当局はこの方法を推奨しないのですか?

作成日時: 8/14/2025更新日時: 8/18/2025
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こんにちは!この質問を見て、富士登山を計画中か、もしくはこの話題に興味があるのかな、と推測しています。何度か登山経験のあるファンとしては、「弾丸登山」という言葉は本当におなじみです。行くたびに、あちこちで山梨・静岡両県などの登山関係機関が掲出している「懸命な」注意喚起ポスターを目にします。

以下、わかりやすい言葉で解説していきますね。


「弾丸登山」(Bullet Climbing)とは?なぜ公式では推奨されないのか?

まず、「弾丸登山」とは具体的に何か?

「弾丸登山」、日本語では「弾丸登山(だんがんとざん)」と呼ばれます。この名前は非常に的を射た表現です。「弾丸」がどんな感じか想像してみてください? 「ビュン」と飛び出し、速くて力強く、目標へ一直線に、一瞬たりとも止まらず進むイメージです。

シンプルに言えば、「弾丸登山」とは:

山小屋の宿泊を予約せず、通常は夜通し歩き続け、ほぼ1日(多くは24時間以内)で登頂し、ご来光(日の出)を見た後、直ちに下山する登山スタイルのことです。

典型的な「弾丸登山」のスケジュールはこんな感じです:

  1. 金曜の夜: 仕事終わりに東京や周辺都市から車やバスで出発し、深夜に富士山五合目(登山口)に到着。
  2. 深夜~早朝: 十分な休息や高度順応をせず、そのまま闇夜の中をほぼ休憩なしで歩き続ける。
  3. 早朝: 日の出前(大体4時~5時頃)に山頂に到達し、有名な「御来光(ごらいこう)」を観る。
  4. 午前中: 日の出を見終えたら、休まずに即下山開始。
  5. 昼/午後: 五合目に戻り、くたくたに疲れた状態で車やバスで帰宅。

まるで「特殊部隊」のような無理なスケジュールですね? カッコよくて効率的に見えますか? しかし、実はこれは、登山関係機関や全ての経験豊富な登山者が「強く反対する」非常に危険な行為です。


なぜ公的機関やベテラン登山者は「弾丸登山」を強く非推奨するのか?

富士山を普通の観光スポットのように考え、「最速クリア」を狙うのは、自分の命に対する大きな無責任です。主に以下のような命に関わるリスクがあります:

1. 高山病(高度障害)のリスクが急激に増加!

これが最も重要です!

  • 身体は順応時間が必要: 富士山頂は標高3776メートル。山頂の酸素濃度は平地の約3分の2しかありません。身体はこの低酸素環境に徐々に慣れる(高山順応)ための時間を必要とします。
  • 「弾丸登山」の致命的欠陥: 夜通しの急登は、数時間で身体を平地から約4000メートルもの高さへ「射出」するのと同じです。体は順応する間もありません。
  • 深刻な結果: 軽度なら頭痛、吐き気、嘔吐、全身倦怠感で登頂継続不可能になり、残念ながら途中下山(= リタイア)せざるを得ません。重度の場合は、命に関わる急性高度障害である高山性肺水腫や高山性脳浮腫を引き起こす可能性があります。富士山での救助事例の大半は高山病が絡んでおり、その中でも「弾丸登山」者が非常に多いのです。

正しい対処法: 七合目や八合目の山小屋に一泊し、2700m~3000mの標高で数時間睡眠を取り高度順応を図り、翌朝登頂することで、高山病のリスクは大幅に低減されます。

2. 極度の疲労による判断力低下と事故の多発
  • 体力の限界突破: 登山自体が体力を非常に消耗する運動です。ましてや徹夜で歩き続けるとなれば、身体も精神も極度に疲弊します。
  • 「疲れてバカになる」は事実: 疲労状態では、注意力、判断力、反応速度は著しく低下します。暗く、急峻で、岩や砂礫の多い登山道上では、一瞬の気の緩みや一歩の踏み外しが、転倒・捻挫、さらには滑落のような深刻な事故につながります。特に体力が限界に達し、緊張感が緩む下山時が危険度は高まります。
3. 夜間登山の固有のリスク
  • 低体温: 夏山だから大丈夫と思わないでください。夏の富士山頂付近でも早朝の気温は0~5°C前後となることが多く、強風が吹けば体感温度はさらに下がります。疲労で休憩し動きが止まると、体温は急速に奪われ危険です。
  • 視界不良: ヘッドライトを使っても、照らし出されるのは目の前の狭い範囲だけです。足元のコンディション、転がり石、分岐点などが見えにくく、道迷いや怪我のリスクが増加します。
4. 最悪の登山体験

仮に運良く高山病にも事故にも遭わず「弾丸」成功したとしても、そのプロセスはどうでしょうか?

  • 道中の景色はほとんど見えない闇の中の強行軍
  • 高山病の症状と疲労に苛まれ、頭はガンガン、吐き気をこらえるだけ
  • 山頂では冷たい強風に震えながらのご来光で、景色を堪能する心境ではない
  • 下山中は足が鉄のように重く、一歩一歩が苦痛の連続

これで登山の楽しみなどどこにあるでしょう? これは完全に「お金を払って苦しみを買っている」ようなものです。


まとめ

富士山を、急いで制覇する「チェックポイント」ではなく、じっくりと向き合い、心を通わせるべき存在として考えてみてください。

  • 弾丸登山 = 高リスク + ゼロ体験価値
  • (山小屋)宿泊登山 = 低リスク + 良い体験

ですから、富士山に登りたいなら、必ず山小屋を事前予約し、ゆとりのある2日1泊のプランを立ててください。これはあなた自身の安全のためであると同時に、日本の頂点に立ち、最初の一筋の太陽の光を迎えるあの感動と雄大な景色を、心から楽しむための唯一の方法です。

忘れないでください。安全に帰宅することこそが、登山の真のゴールなのです。

作成日時: 08-14 09:22:16更新日時: 08-14 15:39:00