フィンテック分野において、楽天フィナンシャル以外に警戒すべき潜在的なディスラプターは他にありますでしょうか?
はい、確かに良い質問ですね。確かに日本のフィンテックと言えば、まず思い浮かぶのは巨大な存在、楽天です。楽天銀行、楽天証券、楽天カード、楽天ペイ……個人が利用する金融サービスはほぼ全て一通り揃えています。
しかし、それに挑戦し、ひいては変革をもたらそうとしている勢力は決して一つではなく、実は戦況は非常に盛り上がっています。私たち一般消費者が注目すべき、主な勢力は以下の通りだと考えます:
1. スーパーアプリ軍団:LY社 (LINE + Yahoo!)
これは、言わば楽天にとって現時点で最も直接的かつ強力なライバルと言えるでしょう。「日本のWeChat / Alipayの集合体」とイメージすると分かりやすいかもしれません。
- なぜ注目すべきか?
- 驚異的なユーザー基盤: 考えてみてください。ほぼ全ての日本人のスマホにLINEが入っています。毎日メッセージをやり取りし、ニュース(Yahoo! Japan)を見ます。この膨大なトラフィックの入り口(プラットフォーム)は、他社が渇望するもの。これは、都心の最も賑わう交差点に銀行を出店するようなもので、集客にまったく困りません。
- “ワンストップ”化への野望: LY社は、LINEアプリ内部にどんどん金融サービスを取り込んでいます。以前からあったLINE Pay(決済)に加え、LINE証券(投資)も登場。また、LINE銀行の計画には紆余曲折がありましたが、その金融分野への意欲はまったく衰えていません。彼らの狙いは明快です:あなたがLINEの中で全てを完結させること、つまり、チャット、支払い、送金、資産運用……アプリ外に切り替える必要をなくすことです。
- 切り札 - PayPay: 忘れてはいけないのは、日本でのシェア率No.1の決済ツール、PayPayの筆頭株主がソフトバンクとLY社だということです。PayPayは既に、コンビニから大型店舗まで至るところに広がり、日本人の支払い習慣を変えています。PayPayという入り口を握りながら、融資、保険、投資などの金融商品を売り込むのは、実に自然な流れです。
一言まとめ: LY社は日本の最大のソーシャル&決済プラットフォームを握り、その破壊力は「利便性」にあります。金融サービスをまるでスタンプを送るように簡単に利用できるようにする点です。
2. 新鋭ネット銀行(Faction / 新世代ネット銀行)
この勢力は楽天やLYのように何でもかんでも手がけるのではなく、「銀行」というコア業務に非常に特化し、体験も抜群に優れています。まるで金融界の"人気店(SNSで話題の店)"のような存在で、豪華な店舗(実店舗)こそありませんが、その製品/サービス(アプリ体験や金利)は多くの若者を惹きつけています。
-
代表的なプレイヤー:
- PayPay銀行 (PayPay銀行): 旧・ジャパンネット銀行(Japan Net Bank)。PayPayに深く統合されています。PayPayの残高をここに直接引き出したり、銀行口座でPayPayにチャージしたりがシームレスに連携できます。数千万いるPayPayユーザーにとって、PayPay銀行口座を開設することは非常に自然な選択肢です。
- auじぶん銀行 (au Jibun Bank): 日本の三大携帯電話事業者(MNO)の一角、KDDI(au)がバックについています。auの携帯ユーザーであれば、この銀行を利用することで優遇金利(より高い預金金利、より低金利のローンなど)が受けられます。つまり、通信サービスを梃子に金融サービスを紐づける「エコシステム」戦略の典型例です。
-
なぜ脅威となりうるのか?
- アプリの使いやすさ: 伝統的な銀行の扱いにくく分かりづらいアプリと違い、これらのネット銀行のアプリは非常に洗練され、直感的に設計されています。送金、残高確認なども数タップで完了し、完全にスマートフォン時代に合わせて作られています。
- よりお得: 実店舗のコストがかからないため、伝統的な銀行や、場合によっては楽天銀行よりも魅力的な預金金利や、より低い手数料を提示できることが多いです。
- シナリオとの連携: これらの銀行は単独で存在しているわけではなく、巨大なエコシステム(決済、通信)の一部です。この紐づけこそがユーザーの離脱を難しくしています。
一言まとめ: 新鋭ネット銀行の破壊力は「体験」と「コストメリット」にあり、伝統的銀行が最も煩わしいと感じさせていた部分を究極までシンプルにした点です。
3. 特定分野の“専門家”たち
上記二つの「軍団」の他に、特定の領域に特化した「スモール・アンド・ビューティフル」な企業も存在します。これらは金融業界全体を覆すことはないかもしれませんが、自らの専門分野においては明らかな破壊者と言えます。
- 例:資産管理/家計簿アプリ:
- Money Forward と freee はその代表格です。これらは元々、家計管理や個人事業主・中小企業の決算・申告業務を支援するツールとして始まりました。ユーザーが自分の銀行口座、クレジットカード、証券口座などをトラッキングし始めると、これらのアプリはユーザー自身よりも財務状況を把握するようになります。
- 次に何が起こるでしょうか? 彼らは「あなたの収入と支出を見ると、こちらの保険がおすすめです」とか、「余裕資金がありますね。この投資商品を試してみませんか?」などと、いわば「親切に」提案してくるのです。このようなデータに基づいた精度の高いオファーは、非常に高いコンバージョン率を生み出します。
一言まとめ: この手の企業の破壊力は「データ」にあり、まずはお金の管理を手助けし、その後はごく自然に「資産形成」へ誘導することで、ツールから金融商品への入り口へと変貌する点です。
シンプルにまとめると
楽天は巨大な金融デパート、何でも取り揃っている存在だと捉えることができます。
- 一方、LY社は目のスーパーコンビニのように、身近な場所(スマホの中)にあり、いつでもどこでも金融商品を手に入れられる存在です。
- 新鋭ネット銀行は**体験重視の直営店(コンセプトショップ)**に例えられ、品揃えは多くないでしょうが、一つ一つが非常に使いやすく心地よいものです。
- そして、垂直分野の専門家たちは専属のパーソナルフィナンシャルアドバイザーの役割を果たし、まずは診断や分析を行い、そこから最適なものを提案してくれます。
今後の金融レースは、どちらが高層の銀行ビルを持つかではなく、誰がよりシームレスに私たちの日常生活に溶け込めるかが焦点になります。この視点で見ると、上記で取り上げたプレイヤーのどれもが、強い破壊力を持った存在として軽視できません。