東京オートサロンは、いかにしてJDMトレンドを牽引し、形成しているのでしょうか?

Zenta MBA.
Zenta MBA.
Car mechanic with deep JDM knowledge.

はい、東京オートサロン(以下TAS)についてお話しましょう。

TASを自動車業界の 「パリ・コレクション」 と考えれば、一発で理解できます。ファッションショーでモデルが着るものが翌年の流行になるように、TASで披露される改造スタイルこそが、その年世界中のJDMファンが追随するスタイルとなるのです。

具体的には、以下の方法でトレンドをリードし、形作っています:


## 1. トレンドの指標:メーカーがここで「重要指針」を示す

トレンドを最もリードできるのは誰か?それは当然、最も力と発言権を持つ者たちです。自動車業界において、それは自動車メーカー(トヨタ、日産、ホンダなど)トップチューニングメーカー(HKS、GReddy、リバティウォークなど) です。

  • 公式な方向付け: トヨタ、日産といった「メーカー」は今やTASを非常に重視しています。GRヤリス、新型Zシリーズなど、自社で最も注目のスポーツモデルに公式かつ最高峰の改造を施したコンセプトカーを、ブースの一番目立つ場所に展示します。これは世界に向けて「ほら、このクルマはこうやるんだ。公式でサポートしてるぜ!」というメッセージであり、そのクルマの改造の方向性を直接決定づけるのです。
  • トップブランドの発表: HKSやGReddyといったチューニングの巨人たちは、1年をかけて開発した最新パーツ群、最先端の改造コンセプトをすべてTASで発表します。例えば、今年流行るワイドボディキットはどれか?好まれるターボのサイズは?人気のホイールスタイリングは?これら大物メーカーの展示車を見れば一目瞭然です。彼らこそがトレンドの決定者なのです。

こうした“業界の大物”がTASで新たなスタイルを披露すると、世界中のメディア、インフルエンサー、車ファンが即座に追従し、あっという間に新しいムーブメントが形成されるのです。

(イメージ図:TASでメジャーメーカーが発表したコンセプトカーは、その後の改造トレンドを予見させることが多い)

## 2. 巨大なインスピレーションの源:『すごい!』から『これ、俺にもできる!』へ

TASは単なる億単位の改造車を見せる金持ち向けのショーではありません。一般のカーファンにとって、それは巨大な 「アイデア素材倉庫」 のようなものです。

会場を巡っても、何十万円もするフルパーツを買えないかもしれないけど:

  • 見たことない色使いのペイント。
  • カッコいいデカール(ラッピング)デザイン。
  • ステアリング交換やレーシングシート追加といった巧みなインテリア改造アプローチ。
  • エンジンルーム内の配管レイアウト、ホイールナットの色合いといったディテールすら学べるのです。

これらの細かいアイデアはあまりコストがかからずとも、クルマの個性や「JDM感」をぐっと引き立てます。多くの来場者は帰るころには『なるほど、俺のシビック/86もこう改造できるのか!』と心に種が蒔かれ、自車でささやかな創意工夫を実現しようと考えるようになります。これこそがトレンドが草の根的に広がり変化する姿なのです。

## 3. 『アンダーグラウンド』から『表舞台』へ:改造カルチャーの「健全化」

JDM (Japan Domestic Market) カルチャーは初期、どちらかと言えば「アンダーグラウンド」で「周縁的」な存在であり、しばし違法なストリートレースと結びつけられていました。TASの存在は、ある重要な役割を果たしました — 改造という行為を「正当なもの」に変える ことです。

  • 合法的な場の提供: 深夜の峠や埠頭でこそこそ集まるのではなく、改造メーカーや愛好家が自らの作品や技術を公に堂々と発表できる、合法的かつ集中的で盛大な展示の場を設けたのです。
  • 産業化と商業化: TASは改造を巨大な産業に押し上げました。デザイン、開発、生産から販売まで、一連のサプライチェーンを形成。改造は単なる個人の趣味ではなく、収益を生み発展可能なビジネスとなり得るという認識を広めました。
  • 偏見の打破: 家族や子供を含む何万人もの人々が集う一大イベントとなることで、社会に無言のメッセージを送り続けています:「カスタムカーは、“爆音で暴走する”危険な行為ではなく、積極的で創造性に満ちた文化だ」。そしてそれは、ひとつのライフスタイルでもあると。

文化が主流社会に受け入れられ認知される時、その影響力と生命力はより強化されるのです。

## 4. 世界のJDMファンへの「拡声器」

インターネット以前の時代、世界中のカーファンは日本の自動車雑誌に頼ってJDMトレンドを知りました。それら雑誌の表紙を飾り「今年のビッグニュース」となる車のほとんどが、TASに由来したものです。

そして今、ソーシャルメディア時代を迎え、TASの役割はさらに巨大化しました。

  • コンテンツの「金鉱脈」: 世界中の自動車系ブロガー、YouTuber、カメラマンが開催期間中に東京に殺到します。彼らが撮影した動画や写真は、その後数ヶ月、時に1年以上かけてネット上で広がり続けることになります。
  • グローバル同時配信: ビリビリ(Bilibili)やYouTubeで視聴する最新カッコイイJDM改造ビデオの多くが、その「一次情報」をTAS会場に持っています。アメリカ、ヨーロッパ、中国にいるJDMファンでさえ、ほぼリアルタイムで最新トレンドの鼓動を感じ取ることができるのです。

この強力なメディア拡散効果こそが、TASが定めたJDMトレンドを瞬時に、遮るものなく世界の隅々にまで届ける力の源です。


まとめましょう:

東京オートサロン(TAS)は、JDMカルチャーの心臓部と言える存在です。それは、 大手メーカー発表(方向付け)、草の根のアイデア(インスピレーション喚起)、カルチャーの健全化(良き場の提供)、世界への発信(拡声機能) といういくつもの側面を通じて、JDMカルチャーに絶え間なく新たな血と活力を注ぎ込み続けます。私たちが毎年目にし、話題にし、追い求めるJDMトレンドを定義しているのです。

よって、TASをJDMトレンドの形成者かつ先導者であると評することは、全く誇張ではありません。