チャーリー・マンガーが提唱する「コミットメントと一貫性のバイアス」は、なぜ人を誤った判断に固執させるのでしょうか?
はい、以下がご質問への回答です。
チャーリー・マンガーが語る「コミットメントと一貫性のバイアス」:なぜ我々は間違いを貫くのか?
チャーリー・マンガー(Charlie Munger)は、その有名な「人間の誤った判断の心理学」講演において、**コミットメントと一貫性のバイアス(Commitment and Consistency Bias)**を、人々が非合理的な意思決定を行う主要な心理的要因の一つとして挙げています。このバイアスとは、一度公に約束や選択をすると、たとえ当初の決定が間違っていたとしても、自分の言動をそれと一致させるよう、内面と外部からの圧力に直面するというものです。
このバイアスは、人々が「一本道を突き進み」、間違いを貫くことの核心的な原因です。その作用メカニズムは以下のレベルから理解できます:
1. 認知的不協和:自己正当化の強力な駆動力
これはコミットメントと一貫性のバイアスの心理学的な中核です。私たちの行動(例:損失が出ている株を保有し続ける)と認知(例:「私は賢い投資家だ」)が衝突すると、**認知的不協和(Cognitive Dissonance)**と呼ばれる緊張や不快感が生じます。
この不快感を解消するため、私たちは「私は愚かな決断をした」と簡単には認めません。それは自己認識を直接攻撃することになるからです。代わりに、衝突を解決するより容易な方法を選びます:行動に対する見方を変え、誤った行動を合理的に正当化するのです。
- 間違いを貫く具体例:
- 「この株のファンダメンタルズは変わっていない。市場がまだ反応していないだけだ」
- 「このプロジェクトは現状赤字だが、成功に必要な先行投資であり、将来の可能性は大きい」
- 「私は間違っていない。ただタイミングを待っているだけだ」
このようにして、私たちの脳は「間違いを貫く」ことを「信念を貫く」や「長期的視野を持つ」ことへと再解釈し、「自分は正しい」という核心的な認知を守ることで、心の調和を取り戻すのです。
2. 公的コミットメントという枷
一度決定を公に表明すると(例:会議で特定のプロジェクトを強く支持する、友人に特定の投資を推すと伝える)、一貫性を保つプレッシャーは急激に高まります。自分自身に責任を負うだけでなく、他者から見た自分のイメージ——言動が一貫していて、決断力があり、信頼できる人物——を守らなければならないのです。
- 間違いを貫く具体例:
- メンツのため:間違いを認めることは自らの顔に泥を塗ることであり、個人の評判や権威を損なう。そのため、内心では問題に気づいていても、口では強硬に主張し続ける。
- パス依存:公的な立場は敷かれたレールのようなもので、その後の言動は無意識のうちにそのレールに沿って進み、方向転換には多大な意志力と勇気が必要となる。
マンガーは、ドイツのマックス・プランク(Max Planck)が量子力学を発見した後も、多くの老物理学者が死ぬまでそれを受け入れようとしなかった例を挙げています。彼らは旧理論を公に講義し、守り抜いてきた人生を送っていたからです。新しい理論が完全に確立されるには、「古い世代が一人また一人と葬儀を終えるのを待たねばならなかった」のです。
3. サンクコストの誤謬(Sunk Cost Fallacy)
コミットメントと一貫性のバイアスは、しばしばサンクコストの誤謬と結びついて現れます。サンクコストとは、時間、金銭、労力など、すでに支払われて回収不能なコストを指します。
誤った決定に多大なコストを投入した後、それを放棄することは、それらの投入が「無駄になった」ことを認めることになります。過去の努力を無駄にしたくないという思いから、私たちはさらなる投入を続け、「取り戻そう」または「プロジェクトを蘇らせよう」とする傾向があります。
- 間違いを貫く具体例:
- 投資:「この株で既に50%損をしている。今売ったら本当に損になる。もう少し投資して平均コストを下げ、戻ってくるのを待とう」
- プロジェクト管理:「このプロジェクトに数百万ドルと2年の時間を費やした。今やめたら、これまでの努力はすべて無駄になるのではないか?続行しなければならない」
この「過去の投入を正当化するためにさらなる投入をする」行為こそが、コミットメントと一貫性のバイアスの典型例です——私たちは過去の「コミットメント」(すなわち、すでに支払ったコスト)との一貫性に固執しているのです。
4. 「フット・イン・ザ・ドア技法」(Foot-in-the-Door Technique)
このバイアスの力は、小さなコミットメントが、その後のより大きな、時には不合理なコミットメントへの道を開く点にも現れます。一度小さな要求(第一歩)を受け入れると、一貫性を保つために、関連するより大きな要求を受け入れやすくなります。
- 間違いを貫く具体例:
- 最初は、小さな、一見無害な譲歩や決定に過ぎない。
- その小さな決定との一貫性を保つため、二つ目、三つ目のより大きな要求を受け入れる。
- 最終的に、当初は愚かに思えた目標のために多大な代償を払っていることに気づくが、既に深く関わりすぎており、放棄することが非常に困難になっている。
「コミットメントと一貫性のバイアス」にどう対抗するか?
マンガーは問題点を指摘するだけでなく、解決策も提示しています。このバイアスに対抗するには、意図的な理性と規律が必要です:
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逆転思考(Invert, always invert):
- 「私はこれを続けるべきか?」と問うのではなく、
- 「もし今日、私がこれを始めていなかったら、今の知識と状況で、私はこれを始めるだろうか?」と問いかける。
- この思考ツールは、サンクコストや過去のコミットメントの束縛から解放し、新しく客観的な視点から問題を検討する助けとなる。
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「間違いを認める」勇気を持つ:
- 間違いを認めることを、弱さではなく強さと知性の表れと捉える。ケインズの有名な言葉がある:「事実が変われば、私は考えを変える。さて、あなたはどうするのか?」
- チームや組織においては、「間違いを許し、修正を奨励する」文化を築き、問題点を率直に指摘し、タイムリーに損失を断ち切る人を評価する。
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「損切りポイント」または「事前検死(Pre-Mortem)」の設定:
- 重大なコミットメント(投資やプロジェクト開始など)を行う前に、客観的な撤退基準を事前に設定する。例:「株価がX円を割ったら」または「プロジェクトがY四半期以内にZ指標を達成できなかったら」無条件で撤退する。
- これにより、将来の意思決定を感情や自尊心から切り離し、より客観的にすることができる。
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公的表明の落とし穴に警戒する:
- 十分に熟慮する前に、早まった時期に、あまりにも断定的に自分の立場を公に表明することを避ける。余地を残しておく。
結論
「コミットメントと一貫性のバイアス」は強力な心理的力です。それは、社会的承認、自己イメージ、認知的調和への私たちの深い欲求を利用し、私たちを最初の決断に固く縛り付けます。それは、過去を守るために未来を犠牲にさせ、一貫性を保つために真実を拒絶させます。マンガーが警告するように、このバイアスを理解し、積極的に対抗することは、より理性的で、より成功する意思決定者になるための必須の道なのです。