なぜ軽井沢ウイスキーは、通常、ボディが豊かで色が濃いのでしょうか?
Rita Richards
Rita Richards
Whisky distiller with two decades of experience.
軽井沢ウイスキーについて語るとなると、多くのウイスキー愛好家にとって、それはまさに「白月光」(憧れの存在)でしょう。なぜその酒質は常に豊かで、色合いはこれほどまでに深いのでしょうか?この問いにはいくつかの側面から答える必要があり、まるで手間暇かけた料理を作るように、どの工程もこだわりが詰まっています。
ウイスキーの風味と色合いの大部分は、熟成に使われるオーク樽に由来すると理解してください。そして軽井沢は、この点において、極限まで、いや、むしろ偏執的とも言えるほどこだわり抜きました。
1. 秘密兵器:最高級のシェリー樽
これが最も核となる理由です。軽井沢は、スペイン産のシェリー樽(Sherry Cask)を非常に好み、熟成に大量に使用していました。
- シェリー樽とは? かつてスペインのシェリー酒が貯蔵されていたオーク樽のことです。想像してみてください、これらの樽は何年もの間シェリー酒に浸され、木材にはそのエッセンス、つまり深い色合いや、レーズン、ダークチョコレート、ナッツ、スパイスのような風味がたっぷりと染み込んでいます。
- 軽井沢のこだわり: 彼らはただ適当なシェリー樽を使うのではなく、高品質な、さらには初めて使用する(ファーストフィル)シェリー樽を特別に調達していました。これは、十年ものの煮込み料理に使われた土鍋で新しい肉を煮込むようなものです。その味が濃厚にならないわけがありません。ニューメイク(蒸留したてのウイスキー)がこのような樽に入れられると、樽から色と風味を必死に吸収し、時間が経つにつれて、色はまるで醤油のように深く、口当たりはドライフルーツやトフィーのような重厚感に満ちたものになるのです。
2. 確固たる「土台」:上質な原材料と蒸留工程
良い樽があるだけでは不十分で、酒そのものもシェリー樽の強い風味に負けない「力強さ」が必要です。
- 大麦の品種: 軽井沢は当時、「ゴールデンプロミス」(Golden Promise)という大麦品種にこだわり続けていました。この大麦はコストが高いものの、それから造られるニューメイクは、他社のものよりもオイリーで、口当たりが豊かになるという特性がありました。これはウイスキーに非常にしっかりとした「身体の土台」を与えたと言えます。
- 小型蒸留器: 彼らが使用していた蒸留器は比較的小型で、蒸留速度も遅めでした。丹念な仕事は良い結果を生む、というように、これにより酒質の雑味が少なくなり、より芳醇でオイリーな質感の酒体が生み出されました。
3. 時間の魔法:恵まれた熟成環境
軽井沢蒸留所は浅間山の麓に位置しており、この環境も大いに貢献しました。
- 涼しい気候: 軽井沢は夏は涼しく、冬は寒いという気候です。このような気候下では、ウイスキーのオーク樽内での熟成速度は比較的ゆっくりと、そして「穏やか」に進みます。暑すぎる気候のように、樽の風味を過度に抽出し、酒が苦渋くなるのを防ぎます。
- ゆっくりと深く: このゆっくりとした熟成は、ウイスキーがオーク樽と深く対話するのに十分な時間を与えました。色合いや風味成分が少しずつ、着実に酒に溶け込んでいくため、最終的な製品は濃厚でありながら、非常に複雑で層の深い風味を持つことになります。
まとめると、これは「強力な組み合わせ」の公式です。
生まれつき「頑丈な体格」を持つ酒(ゴールデンプロミス大麦 + 低速蒸留) + 「豪華で栄養豊富な家」に住まわせる(最高級のシェリー樽) + そして「快適で穏やかな」環境で、十分に長い時間をかけてゆっくりと成長させる(軽井沢の涼しい気候)
これらが組み合わさることで、私たちが今日目にする軽井沢ウイスキーが誕生しました。琥珀のように深遠な色合い、口に含むとシルクのように濃厚で、爆発的な複雑さに満ちた風味。このコストを度外視した究極の追求こそが、閉鎖後も軽井沢をウイスキー界の再現不可能な伝説たらしめているのです。