なぜ軽井沢は「幻の」ウイスキーと称されるのですか?
ハハ、軽井沢の話になると、これはもう伝説的な話ですね。「絶版」と考えると、この例えは非常に的を射ています。
理由は実にシンプルで、そして残酷です。それを造っていた蒸留所が、完全に消滅してしまったからです。
こう考えてみてください。
あなたの近所に何十年も営業しているパン屋さんがあって、そこの秘伝のレシピで作るパンが、とんでもなく美味しかったとします。しかし残念ながら、2000年頃、様々な理由でそのパン屋さんは閉店してしまいました。店主は商売をやめただけでなく、店全体、オーブン、ミキサーまで全て売却して解体し、その秘伝のレシピも失われてしまいました。
軽井沢ウイスキーの状況は、まさにこれと同じなのです。
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蒸留所が消滅した、しかも物理的に「灰燼に帰した」のです。:軽井沢蒸留所は2000年に生産を停止し、2011年頃には完全に解体されました。これは何を意味するのでしょうか?それは、もう二度と新しい軽井沢ウイスキーが1滴たりとも生産されることはないということです。他の生産中止になった商品のように、ブランド側が望めばいつでも生産ラインを再開できるわけではありません。軽井沢の「生産ライン」は、すでに地球上から消え去ってしまったのです。
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1本飲めば1本減る:現在市場に出回っている軽井沢は全て、蒸留所が閉鎖される前に生産され、樽の中で熟成されていた「遺児」たちです。これらのウイスキーが瓶詰めされ売られるたびに、在庫は減っていきます。世界中の愛好家やコレクターが1本飲むたびに、この世から軽井沢が永久に1本減るのです。この「カウントダウン」のような感覚が、それを非常に貴重なものにしています。
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元々の品質が非常に優れている:希少なだけでは不十分で、もし美味しくなければ、ただの飾り物に過ぎません。しかし軽井沢は、その濃厚で複雑、力強いスタイルで知られています。現在では珍しい「ゴールデンプロミス」という大麦を使い続け、そして高価なスペイン産シェリー樽を惜しみなく熟成に用いることで、独特のダークチョコレート、ダークフルーツ、スパイスなどの風味を生み出しました。生産停止後に人々は、日本にこんなにも個性的で素晴らしい蒸留所があったのだと、後になって気づいたのです。
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ジャパニーズウイスキーブームに乗った:最も劇的なのは、軽井沢が閉鎖された当時、ジャパニーズウイスキーは国際的にまだそれほど人気がなかったことです。その後、山崎、白州、余市といったブランドが国際的な賞を次々と受賞し、世界中の注目がジャパニーズウイスキーに集まった時、人々は「なんてことだ、もう一つ消滅した伝説の蒸留所があって、そこのウイスキーはとんでもなく素晴らしいじゃないか!」と驚嘆しました。この「失われた伝説」というストーリー性が、それを一気に神格化させたのです。
だから見てください、「完全な生産停止 + 希少な現存量 + 卓越した品質 + 伝説的なストーリー」、これらの要素が合わさることで、軽井沢はウイスキーの世界でまさに「絶版品」となったのです。今、市場で見かけることができる1本1本は、単なるお酒ではなく、まるで流動する骨董品であり、飲むことができる歴史の一片なのです。