ウォーレン・バフェットが提唱する「オーナー収益」(Owner Earnings)と、ウォール街で一般的に使用されるEBITDAとの本質的な違いは何ですか?また、なぜ彼はEBITDAを「ナンセンス」だと考えているのでしょうか?
ウォーレン・バフェットが提唱する「オーナー利益(Owner Earnings)」とEBITDAの本質的差異
ウォーレン・バフェットはバリュー投資において、企業の真の収益力を評価する指標として「オーナー利益(Owner Earnings)」を重視する一方、ウォール街で多用されるEBITDA(金利・税・減価償却前利益)を誤解を招く財務指標と批判しています。以下では定義、本質的差異、およびバフェットのEBITDA批判の三つの観点から説明します。
1. 二つの指標の定義
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オーナー利益(Owner Earnings):バフェットが1986年の株主への手紙で定義したもので、報告された純利益(Net Income)に減価償却費・償却費・資源枯竭費(Depreciation, Amortization, and Depletion)を加算し、現在の事業水準を維持するための資本支出(Capital Expenditures)および追加運転資金需要(Additional Working Capital)を差し引いたもの。簡略化した式:
オーナー利益 = 純利益 + 減価償却費/償却費/枯竭費 - 資本支出 - 追加運転資金需要
この指標は、所有者(株主)が実際に利用可能なフリーキャッシュフローを反映し、持続可能性と実質的な現金創出能力を強調する。 -
EBITDA:金利(Interest)、税金(Taxes)、減価償却費(Depreciation)、償却費(Amortization)を控除する前の利益。式:
EBITDA = 純利益 + 金利 + 税金 + 減価償却費 + 償却費
ウォール街では、特にM&Aやレバレッジドバイアウトにおいて、企業の営業収益力を簡易評価する指標として頻用される。
2. 本質的差異
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キャッシュフローの実態性:
オーナー利益は必要な資本支出と運転資金の変動を控除し、事業維持・成長後に残る「真の現金」を反映する。減価償却は非現金支出だが資産の実質的消耗を表し、資本支出による代替・維持が必要であることを認識している(例:工場機械は減価償却後、交換必須)。
EBITDA はこうした現実的要件を完全に無視し、減価償却費・償却費を単純に加算戻すことで「理想化」された収益の虚像を創出する。資産維持のための資金投入を考慮せず、現金創出能力を過大評価する。 -
資本集約型事業への適用性:
製造業や公益事業など資本集約型産業では、高額な維持的資本支出(Maintenance Capex)を控除するオーナー利益がより正確。EBITDA は資産の消耗を想定しないため、これらの業種では収益を誇示しがち。 -
投資判断の指向性:
バフェットのオーナー利益は長期的価値を重視し、本質的価値や経済的堀(モート)の評価に適する。EBITDA は短期的営業効率に偏重し、債務調達や簡易比較で多用されるが、持続可能性を看過している。
本質的に、オーナー利益は「動的なキャッシュフロー視点」で企業を「所有者の財産」としての真のリターンに注目する一方、EBITDAは「静的な会計視点」に立つ簡略化ツールであり、誤解を招きやすい。
3. バフェットがEBITDAを「でたらめ」と考える理由
バフェットは複数の株主への手紙(1986年・2000年等)でEBITDAを「でたらめ(bullshit)」と断じ、その理由を以下のように述べている:
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必要経費の無視:EBITDAは「税金・金利を支払わず、資産も維持しない場合の利益」を計算するようなもので、現実離れしている。企業が税金・金利を支払わず、設備を更新しないことは不可能。バフェットは「高いEBITDAを計上しながら巨額の資本支出を要する企業は、所有者が実際に受け取れる現金がなく、『歯の妖精(Tooth Fairy)』のような虚構の利益だ」と例示。
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投資家の誤導:ウォール街はITバブルやLBOで財務数値を粉飾するためEBITDAを濫用し、投資家に企業価値を過大評価させてきた。これは「会計操作ではなく実体経済を見る」というバリュー投資の核心に反する。
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歴史的教訓:バフェットはエンロン(Enron)などの事例を引用し、EBITDAが実質損失を隠蔽するために悪用されたと指摘。投資家が「愚かな判断」を避けるためには、オーナー利益で真実を可視化すべきと主張。
要するに、バフェットがオーナー利益を推進するのは、EBITDAのような「見せかけの指標」ではなく持続可能なキャッシュフローに焦点を当てさせるためである。これは彼のバリュー投資哲学—「真実・慎重さ・長期視点」—を体現している。