軽井沢のポットスチルの規模やデザインは、山崎や余市のものとどのように異なりますか?
Rita Richards
Rita Richards
Whisky distiller with two decades of experience.
おや、良い質問ですね。これら3つの蒸溜所の蒸溜器は、それぞれの個性を最もよく表していると言えるでしょう。あまり専門的なパラメーターの話は抜きにして、それぞれ異なるスタイルの3人の料理人が、違う鍋を使って料理(ウイスキー)を作っていると想像してみてください。当然、その風味は全く異なります。
1. 軽井沢:頑固な小柄な職人
- 蒸溜器の特徴: 小さく、背が低く、ずんぐりしている。まるで頑丈な小型の銅鍋を想像してみてください。
- 設計思想: 軽井沢の蒸溜器は非常に小さく、さらに直火加熱(蒸気ではなく、直接火で鍋の底を熱する方式)でした。この「小型の鍋+強火」の組み合わせは、まるで昔ながらの料理人が小さな鉄鍋で強火で炒めるようなものです。
- もたらされる風味:
- 濃厚で重厚: 鍋が小さいため、アルコール蒸気が上昇・還流するスペースが限られ、多くの香味成分(良いものも悪いものも含む)が直接製品に取り込まれます。そのため、酒体は非常に豊かでオイリー、しっかりとした口当たりになります。
- 力強さ: 直火加熱は鍋底でキャラメル化反応を起こしやすく、ウイスキーに独特の、焼いたパンや焦げたような香ばしい風味を与え、酒の個性をより強くします。
一言でまとめると:軽井沢は「小さくても精巧な」設備を使い、妥協のない、濃厚で重厚な硬派なスタイルのウイスキーを造ることを目指していました。
2. 山崎:多才な「厨房」総責任者
- 蒸溜器の特徴: 背の高いもの、低いもの、太いもの、細いものと、実に様々で、まさに「蒸溜器の博物館」です。
- 設計思想: 山崎の目標は、単一のスタイルのウイスキーを造ることではなく、「交響曲」を奏でるように、複雑さ、調和、多様性を追求することです。そのため、彼らはあえて様々な形や大きさの蒸溜器を一つの蒸溜所に設置しました。
- もたらされる風味:
- 多様性: 背の高い細い蒸溜器では、アルコール蒸気が高い「山道」を登る必要があり、重い香味成分は途中で脱落します。結果として、軽やかでエレガント、花や果実の香りが豊かな酒が得られます。一方、背の低いずんぐりした蒸溜器では、経路が短いため、重厚で濃厚な酒が得られます。
- 究極のブレンド技術: これほど多様なスタイルの原酒があれば、ブレンダーはまるで世界中のスパイスを持つ料理人のように、思いのままに創作し、非常に複雑で奥深いウイスキーをブレンドすることができます。山崎のウイスキーがこれほど複雑で、余韻が長く続くのはそのためです。
一言でまとめると:山崎の蒸溜器は「集団戦」であり、あらゆる兵種が揃っており、無限の可能性と究極の複雑さを生み出すことを目的としています。
3. 余市:伝統を守るスコットランドの硬派
- 蒸溜器の特徴: 伝統的なスコットランド型ポットスチルで、オニオンヘッド型、比較的ずんぐりしており、現在では非常に珍しい石炭直火加熱です。
- 設計思想: 創業者である竹鶴政孝はスコットランドで学び、最も伝統的で硬派なスコットランドウイスキーを日本で再現しようとしました。余市の立地、設備、すべてがスコットランドをモデルにしています。
- もたらされる風味:
- 力強くパワフル: 軽井沢と同様に、ずんぐりした蒸溜器の形状は、より重厚な風味を多く残します。
- 独特のスモーキーさと焦げた香ばしさ: 鍵は「石炭直火」にあります。この加熱方法は非常に制御が難しく、火力が均一ではありませんが、ウイスキーに石炭の燃焼による独特の微かなスモーキーさと、非常にしっかりとした焦げた香ばしい風味を与えます。この力強さは、現代の蒸気加熱技術では真似できません。余市を飲むと、常に雄大で荒々しく、時には潮風のような力強さを感じることができます。
一言でまとめると:余市は「レトロ派」であり、最も伝統的で「手間がかかる割に報われない」方法で、最もスコットランドの魂を持つ力強いウイスキーを造り出しています。
つまり、簡単に言うと:
- 軽井沢:まるで小さなコンロで料理を作る隠れ家レストランの達人のように、究極の濃厚さと個性を追求。
- 山崎:まるで一流の調理器具をすべて揃えたミシュランの厨房のように、風味の無限の可能性と調和を追求。
- 余市:まるで炭火焼きにこだわる焼き師のように、最も原始的で力強い伝統的な風味を追求。
次にこれらの蒸溜所のウイスキーを飲む際には、蒸溜器が与える独特の「鍋の香り」(風味)を感じてみてください!