チャーリー・マンガーは「バリュー投資」をどのように定義していますか?ベンジャミン・グレアムの定義とはどのような違いがありますか?
チャーリー・マンガーとベンジャミン・グレアムの「バリュー投資」:「吸い殻拾い」から「城を買う」へ
チャーリー・マンガーによる「バリュー投資」の定義は、その師であるベンジャミン・グレアムの基礎の上に築かれた、深遠な進化である。両者とも「その本質的価値よりも安い価格で購入する」という核心原則に従うが、「価値」の源泉、評価方法、理想的な投資対象の選択において、根本的な違いがある。
端的に言えば、グレアムのバリュー投資は**「平凡な会社を安い価格で買う」ことであり、マンガーのバリュー投資は「優れた会社を妥当な価格で買う」**ことである。
一、ベンジャミン・グレアムの「バリュー投資」:定量分析と安全域
「バリュー投資の父」として、グレアムの定義は大恐慌時代の背景に根ざしており、その核心は市場価格が清算価値や有形資産価値を大幅に下回る企業を探すことにあった。
核心定義: バリュー投資とは、証券の市場価格とその本質的価値との間に大きな「安全域(マージン・オブ・セーフティ)」が存在する場合に行う投資である。この本質的価値は主に定量的な財務指標によって測定される。
主な特徴:
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定量性優先 (Quantitative First): グレアムは貸借対照表を極めて重視した。彼が探したのは、株価が純流動資産(流動資産マイナス総負債)を下回る企業、すなわち有名な「ネットネット(Net-Net)」投資法の対象である。PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などのハードな指標に注目し、企業のビジネスモデルや経営陣などの定性的要素にはあまり関心を払わなかった。
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「吸い殻」投資法 (Cigar Butt Investing): これはウォーレン・バフェットによるグレアム手法の比喩である。まるで地面に落ちている他人が捨てたタバコの吸い殻を拾い上げるように、見た目はひどいが、無料で一服できる。グレアムが探したのは、市場から見放され、価格は安いが、その残余価値(例:清算価値)がまだ一回限りの利益をもたらす可能性のある企業だった。彼はその会社が持続的に成長できるかどうかには関心がなく、その「最後の一服」の利益を搾り取れるかどうかのみを気にした。
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安全域の定義: グレアムの安全域は主に価格と資産価値の差額に由来する。例えば、ある会社の1株当たり純資産が10ドルで、それを5ドルで買えれば、5ドルの安全域が得られる。
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広範な分散投資 (Diversification): 「吸い殻株」自体の質は平凡で、問題を抱えている可能性すらあるため、グレアムはこのような株式をバスケットで購入し、分散投資によって個々の会社が完全に失敗するリスクをヘッジすることを主張した。
二、チャーリー・マンガーの「バリュー投資」:偉大な企業と経済的堀
マンガーはグレアムの影響を強く受けたが、経済の発展に伴い「吸い殻」式の機会はますます少なくなり、この戦略では大規模な資金による長期の複利成長は実現できないと考えた。彼はバリュー投資の焦点を**「安い資産」から「優れた事業」**へと移した。
核心定義: バリュー投資とは、持続可能な競争優位性(すなわち「経済的堀(モート)」)を持つ偉大な企業を購入し、その将来のキャッシュフローの割引現在価値に対して妥当な価格で保有することである。
主な特徴:
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質優先 (Quality First): マンガーは、偉大な企業の本質的価値は主にその将来の収益力に由来し、帳簿上の有形資産だけではないと考えた。彼は焦点を定性的要因に置いた。
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「偉大な会社」 (The "Wonderful Company"): マンガーが探したのは「吸い殻」ではなく、「城」であった。偉大な会社は通常、以下の特徴を備えている:
- 持続的な競争優位性(経済的堀, Moat): ブランド、特許、ネットワーク効果、コスト優位性など、競合他社からの浸食から会社を守るもの。
- 優れた経営陣 (Excellent Management): 誠実で有能、かつ株主利益を最優先にする。
- 高い資本利益率 (High Return on Capital): 会社が資本を非常に効率的に利用して利益を生み出し、事業を維持するために継続的に多額の資本を投入する必要がない。
- 強い価格設定力 (Pricing Power): 事業を失うことなく製品やサービスの価格を引き上げることができる。
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安全域の進化: マンガーにとって、安全域は低価格だけでなく、企業の品質にも由来する。強力な経済的堀を持つ偉大な会社を購入することは、その事業の確実性と持続的な成長可能性自体が強力な安全域となる。なぜなら、それは将来予測のリスクを低減するからである。
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集中投資 (Concentrated Investing): グレアムの分散戦略とは異なり、マンガーとバフェットは、真に偉大な会社を見つけたら、そこに大きな賭けをするべきだと主張した。そのような機会は非常に稀であり、分散投資はむしろ最高の機会がもたらす超過リターンを薄めてしまうからである。
三、核心的な差異のまとめ
次元 (Dimension) | ベンジャミン・グレアム (Benjamin Graham) | チャーリー・マンガー (Charlie Munger) |
---|---|---|
投資の核心 | 価格 (Price) | 質 (Quality) |
価値の源泉 | 主に会社の有形資産と清算価値に由来。 | 主に会社の将来の収益力とキャッシュフローに由来。 |
安全域の定義 | 市場価格がその簿価または清算価値を大幅に下回っていること。 | 購入価格が妥当であり、かつ会社自体が強力な競争優位性と確実性を有していること。 |
理想的な対象 | 資産が過小評価された平凡な企業。 | 広く深い経済的堀を持つ偉大な企業。 |
ポートフォリオ | 広範に分散、安い株式をバスケットで購入。 | 高度に集中、数社の最高の企業に重点的に投資。 |
核心的な比喩 | 吸い殻拾い (Cigar Butt) | 堅固な城を買う (Durable Castle) |
結論
チャーリー・マンガーはバリュー投資を否定したのではなく、それを現代化し、進化させた。彼はバリュー投資の内実を、**過去と現在(貸借対照表)**の静的分析から、**未来(持続的な収益力)**への動的な洞察へと拡張した。まさにマンガーのこの思想が、ウォーレン・バフェットに深く影響を与え、バークシャー・ハサウェイの投資戦略をグレアム式から「偉大な企業を買って保有する」スタイルへと転換させ、より輝かしい成果を収めることに貢献したのである。