チャーリー・マンガーは、高ROIC企業を中核的な投資対象と見なしていますか?

作成日時: 7/30/2025更新日時: 8/17/2025
回答 (1)

チャーリー・マンガーは高ROIC企業を中核的な投資対象と見なしているか?答えは:間違いなく。

チャーリー・マンガーにとって、持続的に高い資本利益率(ROIC)を持つ企業を見つけ出し投資することは、彼の投資哲学の礎の一つである。これは単なる財務指標ではなく、「適正価格で優良企業を買う」という彼の思想を数値化した体現でもある。

以下、詳細な解説:


1. 高ROICは「優良企業」の中核的な財務的特徴

マンガーの投資理念は、初期のグレアム流「吸い殻株」(清算価値を大幅に下回る価格で平凡な企業を買う)から、ウォーレン・バフェットと共に提唱する「適正価格で優良企業を買う」へと進化した。

では、「優良企業」をどう定義するか?マンガーが最も重要視する特徴の一つは、投下資本に対して非常に高い収益率を上げられる能力である。ROIC(投下資本利益率)は、まさにこの能力を測る最適な指標だ。

  • ROICの意味: ROIC = (税引後営業利益) / (投下資本)。これは企業が株式と負債を含む全ての投下資本を活用し、利益を生み出す効率性を測る指標である。
  • マンガーの視点: 長期間にわたり高いROIC(例:持続的に15%または20%超)を維持する企業は、通常、強力で持続可能な競争優位性、すなわちマンガーとバフェットが言うところの「経済的な堀」(Economic Moat)を有していることを意味する。

2. 高ROICは複利のエンジン

マンガーは複利の驚異を深く理解しており、「複利の威力と、それを理解することの難しさを認識することは、人間の認知能力における重大な試練である」と述べている。高ROIC企業こそが最強の「複利マシン」なのである。

  • 本質的価値の成長: 高ROIC企業は、毎年得た利益を再投資し、同様の高い収益率を継続して獲得できる。
    • 例示: A社のROICが25%、B社が8%。両社とも全利益を再投資する場合、A社の本質的価値は年率約25%で成長するが、B社は8%の成長にとどまる。長期的に見れば、この差は甚大である。
  • マンガーの名言による裏付け: マンガーは明確にこう指摘している。「長期的に見て、株式のリターンはその企業の資本利益率を大きく上回ることは難しい。もしある企業のROICが6%前後ならば、たとえ当初非常に安い価格で買ったとしても、長期保有による年率リターンが6%を大きく超える可能性は低い」。この言葉は、長期投資リターンに対するROICの決定的な重要性を直接的に示している。

3. 高ROICは「堀」の存在証明

単発の高いROICデータは意味をなさないかもしれないが、長年にわたり、かつ安定的に高いROICを維持することは、企業が強力な「堀」を有する有力な証拠である。自由市場では、高い利益率は無数の競合他社を惹きつけ、模倣や値下げ競争を引き起こし、最終的に業界全体の利益率を低下させる。

もしある企業がこうした競争圧力に長期間耐え、高ROICを維持できるなら、それは以下の一つまたは複数の「堀」を備えていることを示す:

  • 無形資産: 強力なブランド(コカ・コーラ)、特許(製薬会社)など。
  • スイッチングコスト: ユーザーが製品・サービスを乗り換えるコストが極めて高い(Appleのエコシステム、銀行)。
  • ネットワーク効果: ユーザーが増えるほど製品価値が高まる(微信(ウィーチャット)、Visa)。
  • コスト優位性: 他社を大きく下回る独自の規模やプロセス上の優位性を持つ(コストコ)。

マンガーが探し求めるのは、まさにこのような幅広い「堀」に守られた高ROIC企業なのである。


マンガー投資哲学の全体像:ROICは唯一の基準ではない

高ROICが中核ではあるものの、マンガーの意思決定は「多元的思考モデル」に基づく包括的な枠組みであり、単一の指標で判断するものではない。

  1. 価格は適正でなければならない(A Fair Price): 世界最高の企業であっても、買い付け価格が高すぎれば悪い投資になり得る。マンガーは自らの「能力範囲(サークル・オブ・コンピテンス)」内で、企業の本質的価値を保守的に見積もり、その価値を下回る適正価格で買うことを強調する。

  2. ビジネスモデルと堀の持続可能性の理解: 投資家は、なぜその企業が高ROICを達成できるのかを深く理解しなければならない。その「堀」は今後5年、10年も堅固であり続けるか?技術革新、政策リスク、消費者嗜好の変化がそれを侵食しないか?マンガーは理解できない企業、あるいは将来の不確実性が高すぎる企業を「判断が難しい銘柄(Too Hard Pile)」リストに入れる。

  3. 経営陣の質: マンガーは経営陣の誠実さと能力を極めて重視する。卓越した経営陣は、高ROICが生み出す潤沢なキャッシュフローを、引き続き高いリターンを生むプロジェクトへ賢明に配分したり、良い投資機会がない場合には自社株買いや株主への配当に充てたりできる。劣悪な経営陣は優良企業をも破壊しかねない。


結論

はい、マンガーは間違いなく高ROIC企業を中核的な投資対象と見なしている。

彼の見解では、持続的、安定的、かつ予測可能な高ROICは、「優良企業」と「強力な堀」を識別する最も重要で直観的な定量的シグナルである。それは長期にわたる複利成長を駆動する根本的なエンジンだ。

しかし、これは投資判断の出発点に過ぎない。最終的な投資判断には、ビジネスモデルの深い理解、堀の持続可能性の見極め、経営陣の質の評価、そして適正価格での購入が組み合わされる必要がある。これらが一体となって、マンガーのバリュー投資哲学の真髄を構成している。

作成日時: 08-05 08:52:21更新日時: 08-09 02:44:21