もし「ミスター・マーケット」が常に理性的であったなら、ウォーレン・バフェットの投資戦略は依然として有効でしょうか?

作成日時: 7/30/2025更新日時: 8/16/2025
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「ミスター・マーケット」が永遠に合理的である場合、バフェットの投資戦略は有効か?

背景

「ミスター・マーケット」はベンジャミン・グレアムが『賢明なる投資家』で提唱した比喩で、株式市場の非合理的な行動を表す。市場は時に感情的になり、過大または過小な株価を提示する。ウォーレン・バフェットはバリュー投資の代表者として、ミスター・マーケットが「狂った」時に割安な優良企業株を買い長期保有する戦略を重視する。その核心は「内在価値」と市場価格の乖離を利用し、市場の非合理性から利益を得ることにある。

しかし、ミスター・マーケットが永遠に合理的(効率的市場仮説(EMH)が想定するように市場が常に効率的で、価格が即時に全ての情報を反映し過小評価・過大評価の機会がない状態)である場合、バフェットの戦略は機能するか?以下に分析する。

バフェット戦略の核心要素の分析

主な戦略要素:

  • バリュー投資原則:内在価値が市場価格を大幅に上回る株を購入
  • 安全域(マージン・オブ・セーフティ):割引価格での購入によるリスク軽減
  • 長期保有:「経済上の堀」を持つ優良企業(コカ・コーラやアップル等)への投資と複利効果の享受
  • 短期変動の無視:市場予測ではなく市場の情緒的行動の利用

市場が永遠に合理的な場合:

  1. 割安機会の消失:完全効率的市場では株価は常に内在価値と一致。情報が即時反映されるため「お買い得品」は存在せず、分析による優位性も得られない。これはバリュー投資の前提を否定し、EMH(市場は常に正しくアウトパフォームは不可能とする説)と合致する。

  2. 戦略の部分的な失効:バフェットの成功は市場の非合理性に依存。1987年ブラックマンデーや2008年金融危機で市場が「恐慌」状態の際に割安資産を購入した事例が典型。市場が恐慌状態にならなければ、優良企業を割引価格で買う機会は消滅。「他人が恐怖しているときに貪欲になれ」という逆張り理論の基盤が失われる。

  3. 完全な失効ではない側面

    • 企業価値評価の有効性:競争優位性・キャッシュフロー等の企業の経済的特質を理解するアプローチは、合理的市場でも有効。価格変動に依存せず、配当や成長による利益獲得が可能。
    • インデックス投資の代替案:バフェット自身が一般投資家に推奨する低コストのインデックスファンド(S&P500等)は、合理的市場で有効。ただしこれは彼の主体的投資戦略の本質ではない。
    • 複利と忍耐の意義:優良企業の長期保有によるリターンは存在するが、収益率は市場平均に収束。過去のような超過リターン(バフェットのバークシャー・ハサウェイは年率約20%)は期待できない。

効率的市場仮説(EMH)との関係

EMH(弱度・半強度・強度の3形態)は市場合理性を前提とし、公開情報による利益獲得を否定する。バフェットは株主への手紙(1988年等)でミスター・マーケットの比喩を用いEMHを批判。1965年からの超過リターン実績が市場の非合理性を証明している。しかしEMHが厳密に成立すれば、バリュー投資はパッシブ投資に退化し、バフェットの「銘柄選択」優位性は消滅する。

結論

ミスター・マーケットが永遠に合理的であれば、バフェットの投資戦略は部分的に失効する。特に市場の非合理性に依存した「割安購入」は機能せず、価格と価値の乖離を利用できなくなる。戦略は優良企業の長期保有に簡素化され、超過リターンは市場平均並みに収束する。これはバフェットが「市場は主人ではなく使用人である」と強調する理由を示唆——彼の成功は市場の時折の「異常行動」を基盤としている。現実の市場は完全に合理的ではないため、バリュー投資の持続的価値が生まれる。

参考:バフェットの株主への手紙(1987年・1999年における市場とバリュー投資に関する議論)

作成日時: 08-05 08:00:35更新日時: 08-09 02:05:07