NISA口座のデメリットや注意すべきリスクは何ですか?

直樹 太一
直樹 太一
Professor of finance, author of investment books.

はい、NISAについてですね。最大のメリットは「投資で得た利益が非課税になる」ことだと誰もが知っています。しかし、世の中にタダ飯はありません。NISAにもいくつかの「落とし穴」というか、特に注意すべき点があります。私の経験に基づいて、いくつか分かりやすくまとめてみました。


1. 損失は損失のまま、他の利益と「相殺」できない

これはNISAの最大の特徴であり、最も注意すべき点です。

例を挙げると分かりやすいでしょう。

  • 一般口座の場合:もし2つの株式に投資し、A株で10万円の利益、B株で3万円の損失が出たとします。この場合、最終的に課税されるのは利益の7万円(10-3=7)に対してのみです。これを「損益通算」といい、利益と損失を相殺できます。
  • NISA口座の場合:同じ状況で、A株で10万円の利益(この10万円は非課税で嬉しいですね)、B株で3万円の損失が出たとします。しかし、この3万円の損失は、他のいかなる利益とも相殺できません。税務署はこの損失を認めないのです。

つまり、NISA口座は損益が独立しています。利益が出れば本当に儲かる(非課税)が、損失が出れば本当に損をする(税制上のメリットがない)ということです。

2. 今年の損失は、来年も救ってくれない

これは上記の点と関連しています。

  • 一般口座の場合:もし今年の投資で全体的に大きな損失、例えば50万円の損失が出た場合、この損失額を翌年以降3年間「繰り越す」ことができます。もし来年60万円の大きな利益が出たとしても、前年の50万円の損失と相殺できるため、来年課税されるのは10万円の利益に対してのみです。これを「繰越控除」といいます。
  • NISA口座の場合:この機能は全くありません。今年の損失は、年末に自動的に「リセット」され、翌年に繰り越して将来の利益と相殺することはできません。

したがって、NISAはリスクが非常に高く、短期的に大きな損失を出す可能性のある投資にはあまり適していません。

3. 非課税枠は「使い切り」、一度使ったら終わり

2024年から、新しいNISAでは年間最大360万円の投資枠があります。この枠は「買付」金額で計算されることに注意してください。

例えば、今年NISAの「成長投資枠」で100万円分の投資信託を購入したとします。しかし数ヶ月後、市場が悪いと感じてそれを売却しました。この場合でも、今年の240万円の成長投資枠は、すでに100万円分が使われており、売却したからといって復活することはありません。今年残っている成長投資枠は140万円だけになります。

そのため、NISA口座は頻繁な売買(短期トレード)にはあまり向いておらず、一度選んだら長期保有するのに適しています。

4. 配当金を非課税にしたいなら、「受け取り方」を選ぶべし

NISAで配当金が出る株式や投資信託を購入し、その配当金も非課税にしたい場合、口座を開設した証券会社で、配当金の受け取り方法を「株式数比例配分方式」(つまり、配当金が直接証券口座に入金される方式)に設定する必要があります

もし他の方法、例えば郵便局で現金を受け取る方式(配当金領収証方式)や、銀行口座に振り込まれる方式(登録配当金受領口座方式)を選んだ場合、その配当金からはきっちり20.315%の税金が引かれ、しかもこの税金は取り戻せません!このことを知らない人が多く、無駄に税金を払ってしまっています。

5. 非課税は「損しない」という意味ではない、元本は減ることもある

これは最も基本的な点ですが、初心者が最も見落としがちな点でもあります。

NISAは単なる非課税の「器」であり、この器の中で購入するのは、株式や投資信託といったリスクのある金融商品です。市場が悪化したとき、購入したものの価格が下がれば、あなたの元本は減少します。

税務署は「もし利益が出たら、税金は取りません」と約束しているだけで、「必ず儲かる」とは保証していません。NISAを銀行預金のように考えてはいけません。本質的には投資であり、損失のリスクがあります。


まとめ:

全体として、NISAは非常に優れた制度であり、特に長期的な、着実な資産形成に適しています。しかし、そのルールを理解し、上記のような「落とし穴」を避ける必要があります。NISAを「一度使ったら後戻りできない」長期的な貯蓄箱のように捉えると、より理解しやすいかもしれません。