地理的条件(北海道と九州)は、ウイスキーの風味にどのような影響を与えますか?
Raghav Sharaf
Raghav Sharaf
Global whisky writer and tasting competition judge.
いやー、面白い質問ですね!例えるなら、同じオレンジを東北で育てるのと、海南島で育てるのとで、味が同じになるか?って聞いているようなものです。答えは、もちろん違いますよね。ウイスキーも全く同じで、地理的な位置がその風味に非常に大きな影響を与えるんです。
北海道と九州の違いを、できるだけ分かりやすくご説明しますね。
北海道:冷静でゆっくりと熟成する「エレガントな紳士」
北海道は、日本の「スコットランド」だと想像してみてください。緯度が高く、一年の大半が寒く、冬には雪が降り積もります。これがウイスキーにとって何を意味するのでしょうか?
- 熟成が遅い: 気温が低いため、樽の中のウイスキーはまるで「冬眠」しているかのように、非常にゆっくりと変化します。アルコールと樽の相互作用は、暖かい場所ほど激しくありません。例えるなら、牛肉を弱火で8時間煮込むのと、強火で10分炒めるのとでは、出来上がる食感も風味も全く違いますよね。北海道のウイスキーは、まさにその「じっくり煮込んだ肉」なんです。
- より繊細でエレガントな風味: 熟成が遅いため、荒々しく刺激的なニューポットの風味が時間をかけてゆっくりと研ぎ澄まされていきます。最終的に得られる酒質は、通常より滑らかで柔らかくなります。フレッシュな花の香りや、ほのかなフルーツの香りを感じやすく、全体的に非常に「クリーン」で「奥行き」のある印象です。
- 代表的な銘柄: 余市(Yoichi) は、北海道を代表する典型的なウイスキーです。寒冷な気候がもたらすエレガンスさだけでなく、海に面しているため、潮風のような塩味や、彼らがこだわり続ける石炭直火蒸留による独特のスモーキーさも持ち合わせています。その個性は非常に際立っており、まるでツイードのスーツを着て、海辺で葉巻を燻らせるクールな紳士のようです。
ですから、総じて北海道のウイスキーのキーワードは、「ゆっくり」、「寒い」、「雅(みやび)」 と言えるでしょう。
九州:情熱的で成長が速い「陽気な少年」
次に九州を見てみましょう。日本の最南端に位置し、気候は亜熱帯で、夏は暑く湿気が多いです。この環境は北海道とは全く異なる世界です。
- 熟成が速い: 高温多湿の環境は、樽の中のウイスキーを非常に速く「呼吸」させます。樽は熱膨張と収縮を繰り返し、酒液と樽材の接触や交換が非常に頻繁に行われます。これは、ウイスキーの成長に「早送りボタン」を押したようなものです。
- より濃厚で奔放な風味: 熟成が速いため、酒液は樽からより多くの色と風味を「抽出」します。そのため、九州のウイスキーは通常、色が濃く、口当たりもより強く、ふくよかです。樽由来のバニラ、キャラメル、スパイスの風味が非常に際立ち、時にはトロピカルフルーツのような甘美さも感じられます。
- 「天使の分け前」が多い: 暖かい場所では、アルコールの蒸発が非常に速く、この蒸発分はロマンチックに「天使の分け前」(Angel's Share)と呼ばれます。酒量が減ることで、残った酒液の風味成分が凝縮され、よりまろやかな味わいになります。
- 代表的な銘柄: 近年、九州では嘉之助(Kanosuke)、津貫(Tsunuki) など、新しい蒸溜所が数多く登場しています。彼らのウイスキーは、しばしば最初から非常に熟成感があり、濃厚な表情を見せ、トロピカルフルーツやバタースコッチのような香りに満ちています。まるで情熱的でエネルギッシュな南国の若者のようです。
ですから、九州のウイスキーのキーワードは、「速い」、「暑い」、「濃い」 と言えるでしょう。
最後にまとめですが、お忘れなく!
気候が最大の要因であることは間違いありませんが、それが全てではありません。料理に例えるなら、火加減だけでなく、食材(大麦)、鍋(蒸留器の形状)、調味料(シェリー樽、バーボン樽、あるいは日本固有のミズナラ樽など、使用する樽の種類)も最終的な味に大きく影響します。
ですから、簡単にこう覚えておくと良いでしょう。
- 爽やかで繊細、エレガントでクールな印象 のウイスキーを飲みたいなら、北海道の蒸溜所に注目してみましょう。
- 濃厚で甘く、情熱的で力強い印象 のウイスキーを飲みたいなら、九州の銘柄を試してみてはいかがでしょうか。
次に日本のウイスキーを飲む機会があったら、まずその蒸溜所がどこにあるのか調べてみてください。そして、その風味が本当にその土地の「地理的な刻印」を帯びているのかを感じてみるのも、ウイスキーを飲む大きな楽しみの一つですよ!