チップ設計において、第一原理思考はムーアの法則のボトルネックを解決できるか?

直樹 淳
直樹 淳
Researcher in AI, uses first principles for novel designs.

この問題は非常に興味深いですね。分かりやすくお話ししましょう。

まず、「第一原理思考」と「ムーアの法則」を神格化するのをやめましょう。

ムーアの法則は、言ってしまえば単なる業界の観察結果です。およそ2年ごとに、同じサイズのチップに搭載できるトランジスタの数が倍になり、性能も向上するというものです。これは「努力目標」というか、「発展速度」のまとめのようなもので、物理法則ではありません。例えるなら、毎年貯蓄を倍にするという目標を立てるようなものです。最初の数年間は、一生懸命働いて節約すれば、実際に達成できるかもしれません。しかし、いつか給料が上がらなくなり、節約できるお金も限界に達すれば、この「貯蓄倍増の法則」は自然と成り立たなくなります。

チップは今、まさにこの状況に直面しています。トランジスタは原子とほぼ同じくらい小さくなっており、これ以上小さくすると、電子が言うことを聞かなくなり、あちこちを飛び回る(量子トンネル効果)ようになります。発熱も驚くほど大きくなり、コストも途方もなく高くなります。そのため、「トランジスタを小さくする」という道筋でムーアの法則を維持しようとするのは、ほぼ限界に達しています。これが、いわゆる「ボトルネック」です。

では、第一原理思考は何ができるのでしょうか?

その核心は、古い法則を「解決する」ことではなく、「ゼロから始める」ことです。

このように理解できます。私たちの元の課題は「限られた土地に、より多くの人が住める家を建てる」ことでした。

  • 従来の思考(ムーアの法則の継続):家をより小さく、より密集して建てる。大きな邸宅から、タウンハウス、小さなアパート、そしてカプセルホテルへ。今やカプセルホテルもこれ以上小さくすることはできません。どうすればいいでしょうか?
  • 第一原理思考:まず、いくつかの根本的な問いを立てます。
    1. 私たちの目的は何ですか? — 「住むこと」であり、「家を建てること」ではありません。
    2. 「住むこと」の本質は何ですか? — 安全で安定したプライベートな空間を提供することです。
    3. この本質を実現するために、「地面に小さな家を建てる」以外の方法はありますか?

このように問い直すことで、発想が広がります。

  • 空中に建てられないか?(チップにおける3Dスタッキング技術に相当し、チップを「平屋」から「高層ビル」にする)
  • 水上に建てられないか?(新素材の探索に相当し、砂(シリコン)ではなく、カーボンナノチューブやグラフェンのような、より優れた素材でトランジスタを作る)
  • 私たちは本当に「家」が必要なのか?「反重力パーソナルフィールド」のようなものを発明して、誰もが自分の空間を持てるようにできないか?(全く新しい計算アーキテクチャに相当し、脳を模倣したニューロモーフィックコンピューティングや、計算原理を根本的に変える量子コンピューティングなど)

このように、第一原理思考は、「家をより小さくする」という道に固執し、「家がどんどん小さくなる」という法則を「救う」ようなことはしません。その役割は、「住むこと」という最も根本的なニーズに戻り、そして全く新しい、破壊的な解決策を考案することです。

結論として:

第一原理思考は、ムーアの法則のボトルネックを「解決する」ことはできません。なぜなら、ムーアの法則が記述する「トランジスタを縮小して性能を向上させる」という道自体が、もうすぐ終わりを迎えるからです。救いようがありません。

しかし、それはこのボトルネックを「迂回」することができ、チップ開発のための全く新しい、より可能性のある道筋を示すことができます。ある道が行き止まりになったとき、その道をさらに1メートル延ばす方法ばかり考えるのではなく、出発点に戻って、他に方向がないかを見るべきだと教えてくれます。

要するに、それは古い時代を延命させる万能薬ではなく、新しい時代を切り開く鍵なのです。将来のチップの進歩は、「何ナノメートル」や「トランジスタの数」で測られるのではなく、特定のタスク(例えばAI計算)におけるエネルギー効率の高さや、古典的なコンピューターでは解決できない問題を解決できるかどうかで測られるようになるかもしれません。そして、これらを推進しているのが、まさに第一原理思考なのです。