イーロン・マスクはなぜ「バッテリーは高価なのではなく、価格設定モデルに囚われている」と考えるのか?

博 周
博 周
Entrepreneur, leveraging first principles for innovation.

この考え方の核心は、彼が最も好んで語る「第一原理」にあります。難しく考える必要はなく、要するに「根本を徹底的に掘り下げ、細かく計算する」ということです。

自分でケーキを焼くことを想像してみてください。どうやってコストを計算しますか?おそらくスーパーに行って、小麦粉がいくら、卵がいくら、砂糖やバターがいくらかを調べるでしょう。これらの主要な原材料のコストを合計すると、ケーキ1つあたりの材料費はわずか数十元(数百円)かもしれません。これが「第一原理」に基づくコストです。

しかし、ケーキ店で買うと100元以上します。なぜでしょうか?その価格には、店舗の賃料、パティシエの給料、光熱費、ブランドプレミアム、マーケティング費用、そしてオーナーの利益が含まれているからです。この100元以上の価格は、「価格設定モデル」に縛られた結果の価格です。「ケーキを1つ作るのに最低いくらかかるか」に基づいて決められたのではなく、「この立地、このブランド、隣のケーキ店がいくらで売っているか」に基づいて決められているのです。

イーロン・マスクは、この「細かく計算する」方法でバッテリーを見ています。

彼は他社のバッテリーがいくらで売られているかを見るのではなく、最も根本的な問いを投げかけました。「バッテリーを構成する最も基本的な原材料は何なのか?」と。

答えは、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、グラファイト、鋼などです。

そして、彼はチームにロンドン金属取引所でこれらの金属原材料の市場価格を調べさせました。私たちがスーパーで小麦粉や卵の価格を見るのと同じようにです。彼らが計算したところ、バッテリーパックの製造に必要なすべての金属原材料を買い集めて積み重ねた場合の総コストは、驚くほど低いことが判明しました。

では、なぜ最終的に消費者に販売されるバッテリーはそんなに高いのでしょうか?

それは、「価格設定モデル」に縛られているからです。

  1. 多層にわたるサプライチェーンによる上乗せ価格:バッテリーが生まれるまでには、一つの工場で完結するわけではありません。鉱山会社は精錬所に売り、精錬所は正極材・負極材メーカーに売り、材料メーカーはセルメーカー(CATLやLGなど)に売り、セルメーカーはさらに自動車メーカーに売ります。このサプライチェーンの各段階で利益を出し、一層ずつ価格が上乗せされていきます。これはケーキに例えると、農家が小麦を育て、製粉所が粉にし、卸売業者が運び、最終的にケーキ店に届くまでに、各段階で利益が乗せられ、価格が自然と上がっていくのと同じです。

  2. 「コスト」ではなく「価値」で価格設定:電気自動車の初期段階では、バッテリーメーカーの価格設定ロジックは「コストが100なら、利益20を加えて120で売る」というものではありませんでした。そうではなく、「私のバッテリーを使えば、どれだけガソリン代を節約できるか?私の高性能バッテリーを使うことで、あなたの車は競合他社よりも高く売れるだろう。ならば、その『価値』の一部を私が受け取る」というものでした。彼らはガソリン価格や競合他社の価格を見て価格を設定し、自社の原材料コストを見ていたわけではありません。これが価格の不当な高騰を招きました。

したがって、マスクはバッテリーの「物理的なコスト」自体はそれほど高くないと考えています。業界全体の古く非効率なサプライチェーンと価格設定モデルが、バッテリーを高くしているのだと。

彼の解決策も非常に直接的です。中間業者が多層的に価格を上乗せするなら、私がすべてを自社で行うか、サプライチェーンを可能な限り短縮する、というものです。これが彼が「ギガファクトリー」を建設した根本的な理由です。原材料を運び込み、材料の精錬から最終的なバッテリーパックの製造まで、ほとんどの工程を一つの工場で直接行い、不要な中間段階と利益をすべて排除するのです。

まとめると、マスクは、バッテリーの真のコストは「原材料の山+最も効率的な加工費」に限りなく近いものであるべきだと考えていました。しかし、当時の市場価格は「原材料の山+多数の中間業者の利益+ブランドプレミアム+ガソリン価格を参考にした価値設定」でした。彼がやろうとしたのは、後者の「虚飾」を排除し、価格を「本来の姿」に戻すことだったのです。