絶対に違います。この二つは協力関係にあり、代替関係ではありません。
このように考えてみてください。第一原理は料理のレシピの根底にある論理のようなものです。例えば、メイラード反応(なぜ肉を焼くと香ばしくなるのか)や乳化作用(なぜ油と水が混ざってソースになるのか)などです。これらを知ることで、レシピをより深く理解し、新しい料理さえ生み出すことができます。
しかし、科学実験はどうでしょうか?それは、実際にその料理を作り、味見をすることです。理論だけで、その料理が必ず美味しいと「計算」できますか?もちろんできません。塩加減を試したり、火加減を見たりする必要があります。もし買った塩が思ったより塩辛かったら?もし今日の鍋がいつもより熱伝導が速かったら?これらは理論では計算できない変数です。実験こそが最終的な「審判」なのです。
科学においても同じです。第一原理(例えば量子力学)は、私たちが現在把握している最も根源的な「ゲームのルール」です。これを使って、新しい材料が「どのような」性質を持つべきかを計算し、予測することができます。これは非常に強力で、私たちに方向性を示し、闇雲に試行錯誤するのを避けるのに役立ちます。
しかし、現実世界は、私たちの最も優れたコンピューターモデルよりもはるかに複雑です。材料には私たちが考慮しなかった微量の不純物が含まれているかもしれませんし、実験環境には予期せぬわずかな変動があるかもしれません。これらすべてが、結果を理論計算と全く異なるものにする可能性があります。だからこそ、私たちは実験を行って検証しなければならないのです。
さらに重要なのは、多くの偉大な発見は理論よりも実験が先行しているということです。科学者は実験で説明できない現象を観察し、その後、根底にある原理を研究し、新しい理論を構築しようとします。例えば、超伝導現象は発見されてから数十年経ってようやく、それを比較的うまく説明できる理論が登場しました。もし実験がなければ、私たちはこの現象の存在を永遠に知らなかったかもしれません。
したがって、第一原理と科学実験は車の両輪であり、どちらか一方が欠けても成り立ちません。第一原理は、最も信頼できる「地図」を作成し、道がどこにあるかを示してくれます。一方、科学実験は、その道を実際に「歩いて」みて、本当に通れるのか、あるいは地図にはない宝物を道端で発見する役割を担います。一方が「考える」役割を、もう一方が「検証と発見」の役割を担い、この二つが協力して初めて科学は前進するのです。